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☆リカバリーキャラバンフェイスブックもあわせてみてくださいね

https://www.facebook.com/recoverycaravanTai

福祉新聞でリカバリーキャラバン隊の冊子「精神疾患を持つ方が働くための合理的配慮の会話帳でっかい輪」を取り上げていただきました。

多くの皆様のおかげでいい冊子になりました。心より感謝いたします。

精神障害者が働くために必要な合理的配慮とは

http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/10061

キャラバン隊がNHKハートネットTVブログの取材を受けています

仕事とともに、このキャラバン隊の活動が大きな生きがいとなっていると紹介されています。

http://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/3400/223531.html

2013年1月28日月曜日

TBSラジオの取材を受けました

リカバリーキャラバン隊とリカバリーカフェについて、TBSラジオの取材を受けました。
放送予定は次の通りです。ぜひお聞きください。
 
 
番組名・放送日時(予定)

  TBSラジオ「堀尾正明プラス」内「人権トゥデイ」コーナー  (東京都人権啓発センター 提供)

  201329日((予定)

  午前818分頃~23分頃まで(およそ分間)

 

コーナーについて

  「人権トゥデイ」は12年ほど前から続いているコーナーで、

  高齢者、障害者、女性や子供、外国人等々人権に関わるテーマの中から、

  身近なものを、できるだけわかりやすく伝えていこうというコーナーです。

  例えば、「自殺未遂者への継続的な支援」地域の子供を見守る高校生の部活動

「多国籍の町に響く子供達のバイオリン」「障害者のアートを仕事につなげる」

   「うつ病の当事者交流会」といった内容を取り上げています。

 (一部はこちらで放送内容を見ることができます。
 http://www.tbs.co.jp/radio/horio/human/index-j.html

 

2013年1月14日月曜日

日本のIPSについて 20. IPSの普及、定着のために私たちが行う活動の方針

日本のIPSについて
20.   IPSの普及、定着のために私たちが行う活動の方針

 私たちリカバリーキャラバン隊は、リカバリー経験の蓄積・共有・伝達を行うことの一部として、日本におけるIPSの普及、定着のための活動を行っています。これまで述べてきたようなIPS発展の歴史、日本の現状や問題認識に照らして、次のようなコンセプトのもとこれを行っています。

ア.      特定の職域団体等と利害関係をもたないこと

特定の職域、職能団体に所属することで、得られるものも大きいものですが、その職域団体に批判的な発言が行えなくなります。特定の財源に頼りこれを行えば、私たちは活動するためにこの財源の指示に従わざるをえません。リカバリーキャラバン隊の活動は、構成員の余暇としてこれを行うことで、大きな権威から一定の距離を保ち、活動の自由を確保したいと考えています。その一方で小さな団体や当事者との協力に重点を置いています。

イ.      当事者に開かれた情報発信とすること

IPSという支援者が持つべき技法や態度に関する研修等の活動ですが、常に精神障害の当事者がこれを受講できることとし、支援の透明性の確保に努めています。論文や学会発表等は、執筆の性質上、難解な表現に偏りがちですが、出版物においては当事者に向けた情報提供を優先しています。

ウ.      わが国での実践に基づいた検証、考察を重視すること

IPSは米国での臨床経験則と統計的検証により精査されたノウハウですが、これを日本で普及するにあたっては、国内での実践に基づいた体験談、個々の小さな気づきや成長を重視します。欧米の研究、大規模統計処理などは、それを得意とする専門家と連携することで実施します。

エ.      当事者とともにこれを行うこと

IPSに関する研修は必ずサービスの利用者を講師として迎えます。7原則やマニュアルからでなく当事者から学ぶ姿勢そのものを紹介すると同時に、リカバリー志向の実践が支援者だけが集まる密室で行われることがないよう配慮します。

オ.      ストレングスモデルの援助付き雇用ができる人材育成を目指すこと

IPSという言葉、原則に忠実な人材でなく、自らの頭と体験により考える人材育成を目指します。当面は、IPSをストレングスモデルに基づいた援助付き雇用と言い換え、これができる人材を広く育成します。福祉、保健、医療、労働分野だけでなく、家族、ピアサポーター、働きたい当事者などもこれに含みます。

カ.      医療機関が就労支援に参加することを促すこと

   IPSの普及、定着において医療機関が果たす役割が特別に大きいことから、医療機関が就労支援に参加できるような活動を重点的に行います。

2013年1月13日日曜日

日本のIPSについて 19.精神障害者を取り巻く環境の変化

日本のIPSについて
19.   精神障害者を取り巻く環境の変化

IPSの原則は、試行錯誤、そして時代に応じて変化してきました。これと同様に、日本でのIPSの実践あるいは普及、定着をはかるためには、刻々と変化する時代背景や制度改正に対応する必要があります。いわば7原則にとらわれすぎていると時代遅れになり、そのことがIPSの可能性を閉ざすものになりかねません。たとえば次のような国内法制度の変革にIPS実践家は対応する必要がありそうです。

¨       障害者権利条約の批准を目指し、内閣府で障害者差別禁止法の格子が作成されています。障害者雇用をうながす論理には障害者雇用率のみでなく、不均等待遇の禁止や合理的配慮の提供も加わることになりそうです。内閣府差別禁止部会の報告書によれば、合理的配慮は請求権として認められる可能性が強いですが、精神障害者の場合は特に請求とその合理性・正当性を個別具体的に援助する仕組みが求められそうです。

¨       これにあわせ障害者雇用促進法の改正も行われますが、厚生労働省の障害者雇用促進分科会での議論を見ると差別禁止法と温度差が生じる可能性も考えられます。雇用率の変更、精神障害者の雇用率への対象化も予定されており、また地域の就労支援の在り方に関する議論では知的障害については一定の雇用が進んだものの、精神障害者や発達障害者については従来の支援技法では難しいと整理され、援助付き雇用の研究の歴史と重なった議論が確認できます。

¨       障害者虐待防止法が議員立法で成立、施行されました。ここでは養護者(親など)、障害者福祉施設従事者等(支援者など)による虐待を定義したことに加え、使用者(雇用主など)による虐待、そして発見した場合の通報の義務とルールが制定されました。また逆に、医療機関内での虐待について触れていないことも知っておく必要があります。

¨       経済界からの強い要望もあり障害者自立支援法により応益負担の考え方が導入されましたが、憲法違反だとの訴訟も起こり、障害者総合支援法を制定する運びとなりました。利用者負担に関する部分以外の、例えばサービス体系に大きな変化はありませんが、就労支援の在り方の変更が見込まれ、議論の行く末を見守る必要がありそうです。

¨       厚生労働省の生活支援戦略では生活保護制度の見直しが議論され、就労収入積立制度など生活保護から脱却するための経済的なインセンティブの必要性が示唆されています。また生活保護の受給に至る前の第2のセーフティネットの創設の必要性も示唆され、生活困窮者には障害の有無にかかわらず就労支援を提供する仕組みが用意される可能性も提案されています。

¨       その他、障害者優先調達支援法の施行、医療保護入院制度の見直しなどもIPS実践に影響を及ぼし得ると考えられます。

2013年1月12日土曜日

日本のIPSについて 18.コミュニティソーシャルワークとしてのIPS

日本のIPSについて
18.   コミュニティソーシャルワークとしてのIPS

このような現状認識を踏まえ、私たちは桜ヶ丘記念病院によるIPSの提供方法の方向を転換することとしました。これは公的な色合いの強いコミュニティソーシャルワークとしてのIPSを展開することを意味します。「ワーキングライフ」「ストレングスモデル」のいずれにも、精神障害者の地域統合を実現するためのコミュニティソーシャルワークの方法について記されているように、リカバリー志向の地域作りもIPS支援の守備範囲と捉えなおしたわけです。この方向転換にあたり、その実践はIPSの土台であるストレングスモデルに基づくべきであることを私たちは確認し、ポジティブな感情に基づきWin-Win関係を構築する交渉術の原則を活用しながら、次のような方針を立てました

【注】コミュニティソーシャルワーク:1982年の「バークレイ報告」で提案された、地域を重視したソーシャルワーク。対面的な個別支援、地域で生活するために必要な社会資源への到達に関する支援に加えて、必要な社会資源の開拓、開発、ネットワーク構築をソーシャルワークとして行なうこととなる。【参考】ストレングスモデル第7章 資源の獲得 地域を地域精神保健に戻す
【参考】ワーキングライフ第10章 求職活動 5.仕事を見つけるための戦略   
 
Win-Win関係を構築する交渉術
1.      価値を理解する
2.      つながりを構築する
3.      自立性を尊重する
4.      ステータスに配慮する
5.      役割を活用する
地域連携のための方針
1.      地域のストレングスに注目する
2.      理念の共有に努める
3.      専門用語に頼らない
4.      エビデンスを武器にしない
5.      他機関とケースを共有する
地域連携のための実践
1.      本人が書いたケアプランの活用
2.      リカバリームービーの上映
3.      役割分担をして連携
4.      就労支援ネットワークの運営
5.      IPS支援者養成研修の実施
6.      リカバリーの学校の活用
7.      企業への支援
   このような地域への働きかけを重ね、地域(他機関)とケースを共有することが可能になってきました。院内サービスだけで利用者を囲わず、就労継続ないし移行支援事業所、ハローワークや都内区市町村就労支援センター(都内各区市に設置されたジョブコーチ配置機関)など院外の福祉・労働・保健機関ともチームを形成するよう心掛けています。自治体の生活保護ケースワーカーや患者の家族、ハローワーク、事業主ないしは人事担当者もまたチームの一員です。地域の就労支援員が利用できる場合には職場内援助は地域に任せ、IPSワーカーは医師との調整や症状管理にまわるイメージですが、職場内でトラブルがあった場合など緊急時はジョブコーチとして駆け付けることもあります。逆に認知行動療法などによる症状管理はシートにして標準ツールとすることで、地域の福祉機関でも対応できるようにして、多職種でなく超職種チームを形成するよう心掛けています。

国内でもIPSを提供する機関が増えたものの、コミュニティソーシャルワークの実践について報告は残念ながらほぼありません。その一方、「理解がない」「考え方が古い」といった地域への不満をあらわにするIPS提供機関、力ずくで自己主張するIPSに対する不信感について語る地域関係者の声を耳にすることがまだ多いのが現状です。ここで語られるIPSとは、リカバリー志向やストレングスモデルから外れていると言えるでしょう。私たちのコミュニティソーシャルワークも、まだ駆け出しです。私たちを育てている先生と教科書は、精神疾患がありながらも日々の生活に挑戦し、よりよく生きようとしている方々であり、ここに記したように地域の関係者です。あらためて深く感謝し、これからもお世話になることをお許しいただきたいと考えています

なお、ピアサポートについては病院の仕組みにあえて取らず、院外でも活動する任意団体リカバリーキャラバン隊を組織し導入しています。

 

2013年1月11日金曜日

日本のIPSについて 17.他機関と連携する困難と醍醐味

日本のIPSについて
17.  他機関と連携する困難と醍醐味

福祉・労働系のサービスで就職活動を重点的に担う一方、医療機関もそれに協力すべきだと書きました。とはいえ他機関と連携するのは支援方針の一致を調整が必要となり、とても面倒なことです。自機関だけで支援を完結させる方が、よっぽど容易です。桜ヶ丘記念病院でもサービス提供の舞台をデイケアから医療相談室に移すことにより、デイケアに登録していた患者だけでなく、主治医を当院に持つ患者であれば誰でも支援できるようになった一方で、地域の作業所や就労継続事業者等を利用している患者がIPSサービスを求めるようになってきました。このことが中原の頭を悩ませていました。つまり就労準備モデルによるサービスを終了し、当院による「エビデンスのある」IPS支援を開始するにあたり、作業所等にそれを理解してもらうことに困難を感じていたわけです。自立支援法内サービスであれば、利用人数は事業所の報酬に直接響きます。そのため事業所側も必死です。間に挟まれた利用者も苦労していました。気を使い、「いきなり辞めると角が立つので、作業所は週に2回は出ようと思います」と中原に申し出る者もいた次第です。

これに対し中原らは地域の関係機関等に対して、IPSのエビデンスを提示する勉強会等を行ってきました。しかし「従来の準備モデルより就職率が高いエビデンスに基づいたサービスです」「どんなに重たい症状でも、まずは就職させる」「失敗も大いに結構。IPSでは失敗を恐れない」等が誤解され、「今まで私達が企業と積み上げてきた信頼関係を壊す無責任なサービスだ」と非難されることもありました。地域の支援機関との溝は深まってしまいました。

しかし、患者が住む地域のジョブコーチや利用している福祉事業所のスタッフとチームを形成することはリスクマネジメントにつながります。院内あるいは法人内サービスだけで患者を囲うことは援助者と患者の不均衡な関係を助長しかねず、さらには患者のキャッチボールで援助者が報酬を得る温床となりやすいものです。増える一方の担当患者数に対応する側面もありましたが、既存の社会資源とその強みを最大限に活用し、ケースを通してリカバリーやストレングスモデルのイメージを共有することもまた、地域を地域精神保健に戻す(ストレングスモデル第7)というIPS実践家が行わなければならない仕事の1つだと考えていたのです。

2013年1月10日木曜日

日本のIPSについて 16. 医療機関内の壁と変化

日本のIPSについて
16.      医療機関内の壁と変化

 とはいえ医療機関で就労支援に関わり始めた当初は苦労が絶えませんでした。院内でもIPS支援の有効性はあまり理解されておらず、法人内の一部の支援者が学会等に報告する成果を出すために行っている取組程度に考えられていた時期がありました。右は、働きたいと意思を表明する患者に対して以前の私たちスタッフが投げかけていたような声かけの例です。これは標準的な精神科病院の様子と変わりはないでしょう

   仕事は、どうやって見つけるの?

   仕事っていっても続かないとね。

   疲れちゃうでしょ。

   無理しない方が良いと思うけれど。

   まだ生活保護なんでしょ。

   仕事すると収入認定あるのよ。

   主治医は良いと言ってるの?

   しばらく様子見て焦らなくていいよ。

しかし、既に述べたようにケースから学ぶことにより私たちの態度は徐々に変化してきました。本人の「働きたい」という希望を中心に治療計画が立てられていくことはシンプルで分かりやすいものです。どうせ無理だろうと考えられていた患者が、本人なりに奮闘していく姿を目の当たりにすると、自分たちの思い込みを反省する機会となります。気がつけば、医師、看護師、デイケア職員などとともに何とか本人の頑張りを無駄にしたくないと必死になっていました。チームの凝集性は高まり、「患者様第一主義」などの美辞麗句の導入では得られないリカバリー志向のサービス体制へとシフトするわけです。

診察場面では医師や支援者を気づかって、言いたいことを我慢している患者も多いものです。症状や困難ばかり記載されがちだが、電子カルテにIPS支援のプロセスで得られた患者のポジティブな側面やリカバリーを記し、医療従事者が持つ「患者は働けない」といういわば認知のゆがみを修正していくこともIPS支援者の大切な仕事になります。また院内でのリカバリーに関する発表、学習会を開催するなどの企画もタイミングを見て織り込んできました。チーム形成には必ず混乱期があるものです。これを乗り越えることはIPS実践のために必要なプロセスであり、乗り越えることでチームが得るものが研修やマニュアルに従った7原則の実践では到達しえない、いわば手続き記憶に基づいた身体で覚えるIPSに必要なノウハウとなると考えています。

IPS開始当時に比べ、医師をはじめとする院内医療スタッフの協力は得やすくなりました。現在、IPS利用者の6割以上は主治医の紹介によるものです。「薬物依存があるが、百発百中で注射できる器用な方です」といった具合に、医師もストレングスモデルに基づき、治療方針の決定や薬物療法、精神療法を行います。IPSワーカーは就職活動に必要な情報を収集(インテーク/アセスメント)し、毎週月曜にハローワークから届く求人情報などを参考にその場で就職活動が開始されることが多くなっています。デイケアの職員もこのアセスメントが取れるよう訓練されており、IPSワーカーとの間でカンファレンスを毎月行っています。ハローワークや就職面接の同行、職場内援助など院外での援助を提供するのは専らIPSワーカーの役割となっています。IPSワーカー以外に、主治医をはじめ、外来・入院・デイケア・医療相談室に所属する看護師、薬剤師、精神保健福祉士、作業療法士などその患者に関わる多職種が電子カルテで情報を共有し、患者に応じてチームが形成されます。

 

 

2013年1月9日水曜日

日本のIPSについて 15. IPS実践を担う人材の育成

日本のIPS
15.   IPS実践を担う人材の育成

この「医療機関における精神障害者の就労支援の実態についての調査研究」から日本におけるIPSの将来が見えます。研究から分かった、現実的でありながら好ましい医療機関の在り方のポイントは

¨       福祉・労働系のサービスで就職活動を重点的に担う一方、医療機関もそれに協力する。

¨       就労支援担当者を兼任でよいから医療機関内に配置し、医師と地域の就労支援機関とのパイプ役をになう。

¨       医療機関は疾病自己管理や生活支援に重点を置いた就労支援を行う。

この体制はわが国における精神障害者への就労支援、そして精神科リハビリテーション体制として現実に数多く存在し、かつ有効であることが確認できました。しかもこの体制は、IPS7原則を満たす精神保健福祉サービスと言えます。しかし、このとき欠かせないのはストレングスモデルという共通言語です。ここにはリカバリー志向、援助付き雇用モデルの採用も含まれます。ストレングスモデルに基づいた支援を、地域の就労支援機関と患者が通う医療機関とで協働することにより、わが国でのIPSは現実のものとなります。

援助付き雇用モデルを実践する人材育成については、わが国でもジョブコーチ(1号職場適応援助者)養成研修が行われています。わが国最大のネットワークと実績を持った「JCネット」による養成研修は、国の基準を満たしながらも民間の実践家のノウハウをふんだんに取り入れた充実したもので、私たちも受講し基本的な技術はそこから得たと考えています。仕事の切り出しから人事担当者への雇用提案に至るロールプレイや企画書の添削などは他に類を見ない充実ぶりです。ただし、援助付き雇用発展の歴史の影響からこの研修は知的障害あるいは発達障害などの自閉症スペクトラムを持ち併せる方への就労支援を得意とする研修プログラムだと私たちは感じています。内発的な動機づけ、疾病自己管理支援、ピアサポートやロールモデルの活用などに関する支援技法は触れられません。国の会議(障害者雇用分科会)でも「従来の支援技法では対応が難しい精神障害や発達障害」と報告があり、これらの支援スキルの獲得が求められています。これらを補うべく私たちが実施しているのがIPS支援者養成研修です。①リカバリー、ストレングス②ナラティブ、エンパワメント、動機付け③職場開拓④体調管理⑤医療との統合の意義の理解が必要と判断し、標準カリキュラム(36時間)を策定しました。研修の効果測定は2010年度に学会発表しています。
また、桜ヶ丘記念病院のスタッフの変化を質的に分析したところ、事前に研修を受講するのでなくIPSを開始することにより実地・臨床経験においてストレングスモデル等を学んでいることが分かった私たちの研究も踏まえ、特に医療機関のスタッフにおいては兼任でよいから就労支援を名乗り、始めてみることの必要性と有効性を紹介しています。

2013年1月8日火曜日

IPSについての原稿を募集します

IPSについての原稿を募集します

日頃より、精神疾患がある方の社会参加支援に取組まれていることに敬意を表します。

私どもでは日本におけるIPSの実践の在り方を議論するため、実践に基づくIPS学会を開催しておりますが、そこで配布する資料にて掲載する原稿を募集いたします。

¨      原稿のテーマ:IPSの原則にもう1つ加えるとしたら、どんなもの?

Ø  テーマや趣旨については、チラシを参照してください。
●2月16日(土)第2回実践に基づくIPS学会 東京都調布市
http://recoverycaravan.blogspot.jp/2012/12/2ips.htm

¨      文字数:A42(文字数で制限しません)以内

¨      〆切と提出先:平成25131()までにrecoverycaravan@gmail.comへメールで。

¨      執筆のルール

Ø  提案いただく原則、氏名、立場(所属等)と連絡先を明記ください。匿名を希望する場合、立場について「クローズで働く支援者」など分かりやすく記載ください。

Ø  倫理規定や盗用の禁止については、一般的な学会等と同様とお考えください。

Ø  申し訳ありませんが、原稿料はご用意できません。

¨      2回実践に基づくIPS学会について

Ø  日時:平成25216(土曜) 1030分~1430

Ø  場所:調布市市民プラザあくろす3階会議室1

東京都調布市国領町2515(京王線国領駅北口からすぐ)

Ø  当日に行うこと(予定):参加者より110分程度発表いただき、その後参加者全員でテーマについて語り合います(ワールドカフェ方式)

 

担当、問合せ先

リカバリーキャラバン隊事務局 中原
メール:recoverycaravan@gmail.com

日本のIPSについて  14.わが国の医療機関における就労支援の実態

日本のIPSについて
14.   わが国の医療機関における就労支援の実態

このことと並行する結果が、2011910月に職業総合センターによる日本の医療機関における就労支援の実態調査においても確認できました。この調査ではクリニック、精神科病院いずれも調査対象とし757の医療機関から得た回答について量的分析を行い、統計的な有意差の有無を確認したものです。

医療機関は何らかの就労支援を行っている386機関とそうでない473機関に二分され、これらはほぼ疾病自己管理支援や生活支援を行っている機関とそうでない機関に重なりました。ここでいう何らかの就労支援とは、自機関で行う就労支援プログラムに限定せず、日常的に診察場面で就職、復職、または就労継続を支援している場合も含みます。つまり、体調の安定のみに焦点をあて薬物療法を行う医療機関と、就労支援のみならず患者の生活全体を診察の対象とし疾病への対処能力の向上を支援する医療機関に2分されました。大雑把に言うと前者の多くはクリニックだと考えてよいでしょう。これは医療機関の役割分担からしてやむを得ない結果かもしれません。

就労支援も実施しているかどうかに限らず、患者が抱える職業上の課題で未解決なものは多いと感じているスタッフが多かったのですが、就労支援を実施している群では「未解決の課題が多いけれど解決できるだろう」と感じている一方、就労支援を実施していない群では「課題そのものが分からない」といった状況でした。また医療機関の就労支援担当者は専任でなく、医療/生活支援を行う者との兼任であっても、職業的課題の解決につながることも判明しています。専任を置いている機関が少ないため統計上の価値は下がりますが、むしろ兼任であった方が好ましいとも考えられる結果でした。さらに自機関で就労支援をしていなくとも、他機関と連携することで職業的課題は解決されるが、他機関に丸投げでは解決につながらないこともわかりました。

就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターと連携すると就職活動など就労支援初期の課題は解決される一方で、仕事上のストレス対処や職場の人間関係の構築など職場定着を示す就職後の課題の解決にはつながっていませんでした。その一方、個々の内容を細分化してデータを採取しましたが、医療機関が疾患自己管理支援や生活支援などを行っている場合、ほとんどの疾病自己管理支援や生活支援において、直接に就労支援していなくとも職業的課題の解決につながっていることが判明しました。

なお、この調査結果は「医療機関における精神障害者の就労支援の実態についての調査研究」報告書に詳しく、かつ無料で公開されています。詳細はこちらをご確認ください。
http://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/shiryou/shiryou71.html

2013年1月7日月曜日

日本のIPSについて 13. IPSの普及のカギを握る医療機関の存在

日本のIPSについて
13.   IPSの普及のカギを握る医療機関の存在

結局は精神障害者に対する援助を行っている立場にあれば、IPSの原則を少しでも取り入れることで、よりリカハリー志向でかつ効果がある援助に移行することはできます。しかし、こうして国内外のサービスや治療文化を見渡してみると、日本のみならずIPSの7原則を満たすための最大の課題は、医療との統合にあると言えそうです。精神科リハビリテーションと職業リハビリテーションが一体的に行われているものをIPSと呼ぶという原則を満たすためには、主治医は最低でも薬物療法により精神障害者に関わっていることを考えると、幸か不幸か主治医を巻き込んでいなければならないというわけです。この意味で全てのケースについて主治医とチーム形成をしているIPSを実施している事例は、わが国では桜ヶ丘記念病院の実践のみになってしまいます。

日本の施策を振り返れば、過剰な医療費により社会保障費がふくれあがりパンクするのを未然に防ぐために、多少の変更はあったかもしれませんが医療費を生みだす医師の数を制限するという国策が取られてきました。現在でも不要な治療、薬物を投与していると指摘されてもおかしくない不適切な事例がしばしば見られることを考えるとこの施策は一定の妥当性があると今後も考えられるでしょう。つまり、医師の数は今後も劇的に増える見込みはありません。限られた医師が最大限の力を発揮し、かつ不要あるいは不適切な治療を医療機関内で未然に防ぐ役割を担うのが、コメディカルと呼ばれるスタッフたちです。精神科の場合は、看護師、精神保健福祉士、作業療法士であると言えるでしょう。医師とコメディカルが対等に治療方針を話し合う環境を作ることで、医師の数が限られているにもかかわらず患者は有益なリハビリテーションを受けることが可能になるというわけです。医師の言う通りに動くのでなく、医師と対等に他のスタッフが患者の治療方針について議論できる文化が精神科医療に必要になります。そして医師でもコメディカルでもよいのですが、そのチームに就労・修学支援に強く関われる者が1名以上いることが、IPSの原則に基づいたサービスを日本(実は欧米でも同じようですが)で普及、定着させるためには必要な条件になります。

2013年1月6日日曜日

日本のIPSについて 12.日本の社会資源とIPS実践との関係

日本のIPSについて
12.日本の社会資源とIPS実践との関係

日本でIPSを実践するにあたり、専用の財源はありません。既存の社会資源を活用し、IPSスタイルに近づけていく努力が必要です。これは悲観すべきことでありません。IPS実践を想定した財源が用意されたとしても、そこでサービスを提供する人々は今と変わりありません。すでに精神障害がある方たちが利用できる医療機関、福祉機関、労働機関を廃止し、IPS提供にふさわしい社会資源をゼロから作り直すことは、既に作り上げてきたノウハウやネットワークが無駄になるためデメリットが大きいことを考えると、既存の社会資源を活用したIPS提供体制を模索、構築する必要があるわけです。

現行の社会資源(財源)を活用し、下記のようなIPS提供が論文や学会における実践報告として確認できています。

事業形態
方法・特徴
課題
就労移行支援(訓練等給付)
訓練プログラムを設けず、援助付き雇用スタイルを採用
サービス提供期間、医療との統合、修学支援の提供
自立訓練(機能訓練)(訓練等給付)
訓練プログラムを設けず、リハビリとして就労・修学支援を提供
就労支援員の確保、サービス提供期間、医療との統合
地域活動支援センター事業(補助)
登録者への総合相談として就労・修学支援を提供、提供期間に上限なし
就労支援員の確保、医療との統合
障害者就業・生活支援センター事業(受託)
労働系財源による援助付き雇用型の支援機関
圏域全体の3障害へ対応が必要、医療との統合、修学支援の提供
デイケア(診療報酬)
デイケアプログラムの一環として就労・修学支援を提供
就労支援員の確保、集団・訓練プログラムとのバランス、医師との連携

また、論文等での報告に至っていませんが、私たちの研修を受けるなどによりアイデアを手にした方たちが、下記のような事業を活用したIPS提供も試みられており、可能性の検証が期待されています。

事業形態
方法・特徴
課題
共同生活援助(グループホーム)(訓練等給付)
世話人業務の一環として就労・修学支援、生活支援と一体可能
就労支援員の確保、サービス提供期間、医療との統合
就労継続支援B(訓練等給付)
サービス提供期間に限界がない
就職後も利用可能
就労支援の実施、工賃作業とのバランス、医療との統合、修学支援の提供
就労継続支援A(訓練等給付)
サービス提供期間に限界がない
それ自体が一般就労とも考えられる
就労支援の実施、労働作業との兼合い、医療との統合、修学支援の提供
相談支援事業(地域生活支援事業)(受託)
総合相談の一環として就労・修学支援を提供
就労支援員の確保、医療との統合
移動支援事業(ガイドヘルパー)(受託)
ハローワークへの同行など外出支援による就労・修学支援
就労支援員の確保、医療との統合、支給決定の可否
訪問看護(診療報酬)
医師と連携した在宅就労・修学支援、生活支援と一体可能
就労支援員の確保

いずれの財源も課題があり、IPS7原則を満たすためには財源で想定されたサービス以外について、多機能型にする、またはいわば手弁当のサービス提供、あるいは他機関との連携(チーム形成)が必要となります。実はこのことがとても大切なことだと考えています。つまり、与えられた財源と制度で想定された援助を行うだけで質の高いサービスが提供できると考えるのは辞めましょう。IPSを実践する方の資質として、援助方法については報酬規定でなく、当事者の想いや生活に従う能力が必要です。

アメリカのIPSは、IPSワーカーが所属するセンターから、各病院へ1名ずつ派遣されるイメージです。職場は医療機関となりますが、センターに帰ればIPSワーカー同士の支え合いや研鑽、情報交換も可能となります。一方で、医療との統合、つまり現場の医療スタッフとの意思の疎通に苦労するそうで、これは日本と同じようです。医療機関内でどうやってIPSの実践を可能としているかについて、バーモント州のIPSワーカーから尋ねられたこともありました。

桜ヶ丘記念病院におけるIPS実践について特に財源はなく、法人全体が得る診療報酬等の中で人件費は賄われています。これはIPSワーカーが提供するサービスで診療報酬は得られませんが、医療機関として行うべきサービスだと位置づけているためです。財源がないためこれ以上の増員等は難しいと考えられていますが、特定の財源に縛られず自由に必要に応じてIPSにふさわしいサービスを提供するために必要な環境は一番得やすいと考えています。